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F1品種と固定種

F1品種とは

F1品種は異なる品種あるいは同一系統の品種を掛け合わせた雑種のうち、初めの世代のものを指します。 これを「雑種第一代」や「一代雑種」などと言い、英語では「first filial generation」と言います。

一般的に、F1品種は収穫量が多く、形が綺麗に揃うと言われていて、それゆえに市場に出回っている野菜の多くはF1品種です。

F1品種が多収で形が綺麗な理由は、「雑種強勢(ヘテロシス)」という性質と、「優性の法則(law of dominance)」が働くためです。

雑種強勢とは、雑種第一代に現れる現象で、両親に比べて優れた性質を持つという現象です。 両親の遺伝子系統が離れているほど顕著に出るようです。

F1品種では、この雑種強勢を活かし、両親の特性を持ちながら、両親よりも生育が早く収穫量が多い品種を作っているという事になります。

次に「優性の法則」についてですが、これは、メンデルが発見した法則で、雑種第一代において、両親の異なる対になる性質のうち、片方のみが現れるという法則・現象です。

F1品種は、この性質を利用することで、形が揃いやすい品種を開発しているようです

両親の異なる性質のうち、「何をもって優性になるのか、劣性になるのか」は、色々と研究がなされているようです。

ちょっと私には難しすぎて分かりませんでした…。

なお、必ずしも優性が現れ、劣性が現れないのではなく、その中間の「不完全優性」という現象もあるようです。

また、優性・劣性というのは、性質的に優れているか劣っているかを示すものではなく、遺伝子的に顕在しやすいかどうかを示すものです。

そのため、近年では、優性・劣性とは言わず、顕性・潜性と呼ぶそうです。

F1品種の次の世代は性質にばらつきが出る

F1品種の場合、その次の世代は、必ずしもF1品種同様の性質を持つとは言えず、性質にはばらつきが出ると言われています。

これは、メンデルが「分離の法則」として解明しています。

雑種第一代は「AA」の親と「aa」の親を掛け合わせて、「Aa」の子を作っていますが、第2世代になると、「Aa」と「Aa」が掛け合わさることで、様々な特性の子供ができるから、というのが原理のようです。

「遺伝学電子博物館」の以下の図が参考になります。


固定種とは

固定種は、品種の特徴が固定されている品種です。

F1品種と比べてどう異なるのかというと、自然交配を繰り返し、その地域にあった特性に育った品種であるという点です。

在来種とも呼ばれることもあります。

作物には日本古来のものもあれば、海外から渡来したものもありますが、海外から渡ってきた野菜も、日本の各地で育てられ、採種され続ける事で、気候風土にあった性質として固定し、地域に定着しました。

このように育ってきた品種が固定種と呼ばれているんですね。

種苗業界では「単種」とも呼ばれるそうです。
また、英語では「OP = Open Pollinated(自然交配)」と呼ばれています。

F1品種のように、異なる品種や同一系統の品種を掛け合わせた種子と異なり、固定種は同じ品種同士が受粉することで似たような性質になっていった品種と言えます。

似たような性質と書いたのは、F1品種のように、全く同じ性質になるわけではないためです。

これは、農文協の「農業技術大全 - 野菜編 第7巻 ハクサイ」の解説が分かりやすいと思いますので、以下に引用します。

 学問的には,固定とは,雑種植物の各形質に関与する遺伝因子がそれぞれについて同じ組成(ホモ)になり,その子孫が分離を示さない状態にまですることを意味する。しかし,自殖性のものは別として,他殖性のものは,すべてホモにすることはむずかしく,またそれによって自殖弱勢など,いちじるしく不都合な面が生じることもあるので,一般には実用的に支障のないていどの雑種性をもたせて育成した一集団を“固定種”と呼んで利用しているわけである。

 たとえば,日本人という集団を一つの固定種と考えると理解しやすい。日本人という品種には,肌は黄褐色,髪や目は黒,腸は長く,脚は短めで,幼児にはモンゴリアンスポットがあらわれる,などの特徴があるが,個々についてみると顔もみな少しずつ異なるし,体格も一様でないというように,ある範囲内にその変異が分布している。しかし,日本人集団のなかからは,金髪や赤毛,青い目というような形質は見出せない。ちぢれ毛の集団とか黒い肌の集団とかは,また別の品種と呼ばれることになる。

出典 : 『農業技術大系』野菜編 第7巻(一般社団法人農山漁村文化協会)

「世界中にはいろんな人種がいるけど、日本に住む日本人は、似たような性質を持っている」という事ですね。

そして、「同じ日本人であっても、それぞれ個性がある」というのが作物の固定種における性質のばらつきであると言えます。

固定種は採種ができる

F1品種は雑種第一代であり、その子供である第二世代以降は、性質にばらつきが出てくると言われています。

一方で、固定種は雑種第一代ではなく、性質が固定されるまで自然交配された品種であるため、種を採って(採種)、子孫を残すことができます。

種を採り、その地で育てていくことで、その土地にあった品種になっていくと言われています。

なお、作物の品種には、育成者権という種苗法に基づいた知的財産権が存在します

このような育成者権が付帯されている品種は「登録品種」や「PVP登録品種」などと呼ばれ、増殖して販売することを禁止されています

「PVP登録品種」はパッケージにPVPと記載されているので確認してみてください。

なお、PVPは「Plant Variety Protection」の略で、日本語では「植物品種保護」を意味します。

固定種は自然農に適しているのか

よく、固定種はF1品種に比べて自然農に向いていると目にしたり、聞いたりすることがあります。

それは、F1品種は「現代の単一周年の栽培用に開発された品種であるから」、という理由が多いです。

特に個人的には「大量に収穫できるように改良されているため、肥料を多く必要とする」とよく聞きます。

これに関しては、正直なところ、私はまだよく分かりません。

F1品種のうち、増殖が可能なものを自家採種して固定種化させている方もいらっしゃるようですし、個人でF1品種の第二世代を育ててみて、F1と大差ないと紹介している方もいるようです。

2022年時点では、私も作物によってはPVP登録品種ではないF1品種を育てていますので、来年度以降に、どうなるのか、試してみたいと思います。

「固定種が自然農に適している」という考えは、もしかしたら考え方は逆なのかもしれません。

例えば、その地域に根差した在来種は、化成肥料を使わない時代から育てられているため、あるいは有機肥料であっても、市販の肥料のように肥効が安定していなかったため、地力の低い土地でも育ち、また、その土地ならではの気候や土壌の耐性が生まれたのではないかと。

逆に、F1品種は、特定の病気への耐病性を持たせた品種が開発されているため、なんとかそれを固定化させれば、新しい固定種が生まれるのでは…と、安直に考えてしまうのですが、「そんなに簡単なものではない」と怒られてしまうかもしれません…。

参考文献
遺伝の「優性」「劣性」使うのやめます 学会が用語改訂:朝日新聞デジタル
メンデルの法則|遺伝学の歴史|遺伝学電子博物館
一代雑種-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
雑種強勢-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
タネ屋があかす固定種の話(食農教育 2009年03月号 タネ屋があかすF1・固定種の話)


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この記事を書いたスタッフ

園主

清水公太

化学農薬、化学肥料に頼らない野菜の栽培方法を模索しています。
このサイトでは、当園の情報はもちろん、農業や野菜に関する情報も発信していきたいと考えています。

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